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「バグダッド動物園のベンガルタイガー」鑑賞記

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イラク戦争時に、バグダッドの動物園で実際に起きたアメリカ兵によるベンガル虎の射殺事件をベースにした社会派ドラマ。
アメリカの劇作家によるこの戯曲は過去、ピュリッツアー賞にノミネートされ、ロビン・ウィリアムズ主演でブロードウェイで上演されている。
この話題作に、実力派の日本人キャスト、スタッフが挑んだ舞台を鑑賞。

イラク戦争下のバグダッドの動物園で歩哨任務にあたっている二人組の米兵トム(谷田歩)とケヴ(風間俊介)。
実戦経験が乏しく、口ばかりのケヴは、トムがサダム・フセインの息子の家を襲撃した際の武勲話と、彼が戦利品で持ちかえった黄金のオートマチック拳銃に目を輝かせている。
彼らの背後では檻の中のベンガル虎(杉本哲太)が、戦時下の混乱で脱走して射殺されたライオンたちのことを考え、自分も逃げ出すべきだったのではと空腹を抱えながら自問していた。
酒に酔ってふざけたトムは虎にちょっかいを出すが、右腕を食いちぎられてしまい、ケヴが黄金銃で虎を撃ち殺す。
以来、ケヴは自分が撃ち殺した虎の亡霊に憑りつかれ、精神に異常を来たし、自らの手を切り落として自殺してしまう。
一方、義手となり、再びイラクに戻ったトムはどさくさに紛れてケヴが持ち去った黄金銃と、同じく戦利品である黄金の便座を捜すが、ケヴの亡霊に憑りつかれてしまい、事ある毎に姿を現すケヴに苛まれる。
生前とは異なり、知性的で雄弁となったケヴは、同じく現世を彷徨う虎と神なる者の存在について語り、悩んでいた。
自殺前に錯乱したケヴから結果的に黄金銃を受け取ることになった通訳のムーサ(安井順平)は、かつて庭師として従事していた黄金銃の持ち主であるウーダイ・フセインの亡霊(粟野史浩)から誹りを受け、苦しんでいる。

生者と死者の言葉と思いが交錯する中で、戦争によって産み出されたいびつな狂気がくっきりと浮かび上がり、悲劇的な展開を見せながら、「罪とは」「生きるとは」といった、生きとし生けるもの達の根源的な問題に迫る作品を、達者な俳優陣が素晴らしい演技で具現化している。

生前はどちらかと言えば知性を感じさせず、虚勢を張ってばかりで、「こういう口ばかりで嫌な感じの若者っているよなぁ」というキャラクターでありながら、亡霊となってからは打って変わって知性的な人物となるケヴを自然体で演じた風間俊介が抜群の存在感を放っていた。

また、ドラマ「下町ロケット」で人気となった谷田歩も、欲に目がくらみ、すべてを失ってしまうトムを迫真の演技で演じきっており、虎役の杉本哲太、ムーサ役の安井順平ら、メインキャストの全員が実に適材適所で作品を強い説得力で裏付けし、全編に渡って魅せてくれた。

狂気と悲劇に満ち、罪と死の連鎖の物語でありながら、様々な葛藤を抱えつつも、無限のループを感じさせる静かなエンディングのせいか、不思議と鑑賞後は穏やかな余韻が残る素晴らしい舞台だった。

(NAS)

「バグダッド動物園のベンガルタイガー」
2015年12月8日(火)~27日(日)
新国立劇場 小劇場
【スタッフ】
作:ラジヴ・ジョセフ
翻訳:平川大作
演出:中津留章仁

美術:土岐研一
照明:佐藤 啓
音響:藤田赤目
衣裳:加納豊美
ヘアメイク:川端富生
演出助手:大澤 遊
舞台監督*福本伸生

【キャスト】
杉本哲太 
風間俊介 
安井順平 
谷田 歩 
粟野史浩 
クリスタル真希 
田嶋真弓 
野坂 弘

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Stage

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